# 035
私は地球からきたという挨拶
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(1) 温暖化の検出 温暖化の雪氷圏や自然生態系への影響を扱った研究論文を網羅的に収集し、その中から、「気温」を扱っていること、20年以上の観測データを有すること、を条件として、研究事例を絞込み、水文・氷河、動植物などの統計的にも有意な事例をもとに、すでに影響が出ていると結論した。例えば、動植物への影響としては、生息範囲のシフト(極方向や高々度方向)、数や量の減少、生理的な変化(開花時期の早期化)、形態学的な変化(個体サイズの減少)など挙げられている。降水量の影響については、研究事例が少ないので、今回は取り上げていない。人間活動などその他の要因との複合影響については、気温のみが要因として統計的にも有意な事例に限っている。 (2) 異常気象の影響 アジア地域などでは、すでに各地で温暖化に関連すると考えられる異常気象(洪水、熱波、エルニーニョによる現象など)が発生しており、多くの被害が出でている。全球的には台風やエルニーニョなど異常気象と気候変化の関連は不確実性が高いとされるが(第一作業部会報告)、地域によってはこうした異常気象と気候変化の関連が現れているとされ、今後も増大する可能性が指摘されている。表−1はSPMに載せられた異常気象とその影響についての表である。当初表には、台風やエルニーニョ等や、熱塩循環の停止や西南極氷床の融解など、確率は低いが、破滅的な影響を生じる現象が挙げられていたが、全体会合での議論を踏まえて最終的には削除されが、SPMでは簡単に触れている。 (3) 温暖化の悪影響・好影響のバランス 従来の温暖化の影響評価では、悪影響が主体であったが、今回は、悪影響、好影響ともに取り上げている。とくに各国政府から、両者をバランスよく取り扱うべきであるというコメントが再三出された。温暖化の結果として、これまで寒冷地で農業に適さなかった土地で農耕が可能になること、冬季暖かくなるので死亡や疾病が減少すること、また最低気温が上昇することに対しては、悪・好影響両方あるので、大分議論になった。SPMでとりあげられた悪・好影響の事例は以下のようである。 悪影響の例: ・熱帯、亜熱帯地域では、予測される気温上昇により潜在的な穀物生産量が減少する。 ・数度以上年平均気温が増加することにより、中緯度地域の大半の地域で潜在的な穀物生産量が、一部変動はあるが、一般に減少する。 ・水が乏しい多くの地域、特に亜熱帯地域で水利用可能性が減少する。 ・動物媒介性疾病(マラリアなど)、水系伝染病(コレラなど)、熱ストレスによる死亡が増加する。 ・豪雨の増加や海面上昇により多くの人間居住地(数千万人)の洪水リスクが増加する。 ・夏季高温による冷房エネルギーが増加する。 好影響の例: ・数度以下の気温上昇では、中緯度の一部の地域で潜在的な穀物生産量が増加する。 ・適切に管理された森林では、木材供給が潜在的に増加する。 ・水の乏しい地域、例えば、東南アジアの一部で、利用可能な水が増加する。 ・中緯度−高緯度で冬季の死亡が減少する。 ・冬季気温が上昇することにより、暖房エネルギー需要が減少する。 ただし、好影響も、0〜2或いは3℃の範囲に限られ、温暖化がどんどん進行する状況では、好影響も長続きはしないことに留意する必要がある。 |